20070630幻影の館(8) of 床下通信オンライン

ジャンクっぽいモノモノ置き場的なナニカ。大丈夫なのか。続くのか。

「幻影の館」顛末記本編その6

ACT.8  下僕たち、帰路につく

 …まあ、敵意を持った存在じゃなかったので、俺たちはすんなり返してもらえたとも言えるわけだ。緊張感のない話をしながら歩く3人の後ろを、俺は無言で歩いている。「…これで保安官の彼に話をすれば、とりあえずの任務終了ということね。」「祝杯あげようか。」…歓迎会やっておやつ持参で次は祝杯かよ…。俺は自室のベッドが恋しい、てかふて寝したい。「伝説の魔法使いの割には、気さくでいい人だったよね~。」…え…それには大いなる見解の相違を感じる…。「…シュール君、大丈夫?」…はあ…そうやって蒸し返さないで欲しい…。正直に言うのも悔しいので、肩をすくめる動作で答えておく。

 魔法使いは、館の地下室を使ってしばらく秘密裏のうちに研究の日々を送るという。静かな生活を送りたいから保安官以外には口外しない、という約束になっているが、つまりそれは…。
 「今度は、ゴンズさんからも何か依頼があるかも知れないわね~。」考えていたことを代弁する声があり、そっと俺はため息をつく。まあ、こっちの実力のほどはわかっているだろうから、過剰な期待はかけてこないだろうが。それにしても天敵が増えた感じは否めないな、と思う。

 村が近くに見えてきた。夕日で長く伸びた影が、木々に絡められるような印象を残して森の中へ消えていく。「お仕事終了、というところかな。」「無事帰ってきたわねえ。」「無事も何も、しょっちゅうあそこに行って遊んでたから、お仕事という実感がわかないなあ。」出会いが後に引く予感を振り払い、視線を彼女たちの方へと向ける。…ああ、駄目だ。俺の醜態を口止めするいい方法も思いつかないし、そもそもそうやって自分から蒸し返すのも嫌だ。いいや、もう。どうせ俺は駄目属性なんだし。諦めた。
 「さ~て、宿に行ったら祝杯だね!」勝手にやってろ、という意思表示の代わりに能天気な声を黙殺したはずだったが、「シュール君大変だったもんね!慰労してあげるよ!」と更に能天気な申し出が続く。まったくこっちの反応を考慮してないだろう!空気読めよな!「…いや…俺は遠慮して…」「え~、だって疲れてるでしょ?」「付き合い悪いわよ。いいじゃない食事くらい。」多少なりとも付き合いの長いメディーヌとフランに強引に引っ張られ、『そこまで付き合う必要はないよな?』とエスリンの方を見る。彼女は俺と目が合うと、『ゴメン』というような素振りをした。「…食事する必要はあると思うし、一緒でもいいんじゃないかな。」
 ああ、宴会決定。酒の肴決定…。俺は怖い女たち3人に連れられてしおしおと酒場の扉をくぐっていった。

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